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【ロボット業界で活躍する女性たち】第1回:株式会社アールティ代表取締役
中川友紀子氏 Vol.4「アールティ起業とオリジナルロボットたち」

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ロボット業界で活躍する女性にスポットを当てる本コラム。第1回の最終回となるVol.4ということで、株式会社アールティ代表取締役の中川友紀子氏の、同社を創業した際の話や、同社のオリジナル製品のコンセプトなどについて、お話を聴かせていただく。

そこには男女の性別は関係ない部分ももちろんあるのだが、女性ならではと目からウロコといった感心させられる部分もあった。今回のインタビューでは、男性的な思考にとらわれたままでいると、ロボット・ビジネスの発展はないのではないかと感じさせられるインタビューであったとお伝えしておきたい。


─前回は、日本科学未来館に移ってASIMO(初代)のデモを手がけていたりした話を伺いました。同館を退館されて、2003年10月から株式会社イクシスリサーチに移られていますが、なぜ日本科学未来館を退館されたんでしょう?

中川氏:今は若干変わったようですが、日本科学未来館は年限があるので、残りたくても残れないということです。退館する時に、5社ぐらいからお話をいただいて、その中からイクシスリサーチさんを選んだというわけです。それにしても、日本科学未来館を退館する時は、特にASIMOを残していことがとても心残りでしたね……。

─中川さんにとってASIMOは我が子のような感じだったんでしょう。どれだけ苦楽を共にしたかが想像されますね。そんな思いをしつつも、新たにイクシスリサーチに移られて企業経営のなんたるかを学んでいったと。そして、いよいよ2005年09月にアールティを起業。イクシスリサーチ時代の話はまたの機会に譲らせていただくとしまして、今回はアールティについてと、中川さんがアールティで開発されたロボットについてを本題として聞かせてもらおうと思います。まず、なぜ起業という手段を選んだのでしょう?

中川氏:やっぱり面白いと思ったことが第一ですね。やってみたかったというのがあります。私は、産業というのは、ハードの充実、サービスの充実、インフラの充実がないと発展しないと思っています。当時は、サービスの充実というのを手がけている会社がなかったんですね。なので、そこをやってみたいと思っていました。

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─これまでのお話で、中川さんはチャレンジャーだと非常に感じるのですが、ここでもそれが出ていますね。ちなみに、今年の9月で創立5周年ですね。企業経営はこれまでとは比べものにならないほど大変だったのではないでしょうか。

中川氏:それは、もちろん大変ですけよ。胃が痛くなることなんてしょっちゅうですもの。よく5年も続けられたなと、我ながら思いますよ。今でこそ当初よりはだいぶ上向いてきましたけど、だからといって余裕があるわけではないですし。でも、そうした苦労があってでも、自分で考えたことを実現できるということには、やり甲斐を感じますね。

─来る来るといわれているロボットの時代がなかなか来ない。しかも、経済状況もこういう状態ですし、ロボットに関する企業の経営者として、かなり苦労されたのではないかと。自分も、ロボタイムズを運営してみてよくわかりました(笑)。

中川氏:大変は大変ですけど、ロボット業界の動向に関する予測を外したことはないんですよ。5年前にアールティを立ち上げて、ショップだけだと厳しくなるのは予想していたので、メーカーを目指して来ました。その一環として、「RIC」やハーフマイクロマウスの「Pi:Co」といったオリジナル製品を開発して販売し、同時にアルデバラン・ロボティクスの「NAO」の日本総代理店を務めるという風にステップを踏んできたんです。自分のところで開発したものを販売するメーカーにシフトしていかないと、こういう時代だから厳しいです。この状況で、ただショップの経営のままだったとしたら、続けられたかどうか本当にわからないですよ。

─先見の明があったわけですね。自分をほめてあげたい気分なんじゃないかと。それにしても、中川さんは、研究者だし、ロボットも作れるエンジニアだし、そして経営者でもあって、映画「アイアンマン」の主人公のトニー・スタークの女性版みたいです(笑)。

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中川氏:あそこまですごくないですよ(笑)。まぁ、ものすごく潤沢な予算さえあれば、パワードスーツだって開発できなくはないでしょうけど。さすがに、飛んだりするのは無理かな(笑)。

─その時は、テストパイロットを希望します(笑)。では、ちょうどお話に出てきたので、続いてアールティのオリジナルロボットについて伺いたいと思います。それぞれ伺いたいところですが、ここではRICについてお聴かせください。まず、どういうコンセプトのもとに誕生したのでしょうか?

中川氏:RICは、もともと、1mクラスのロボットでも、子どもたちが触れたり抱きついたりしても大丈夫なものを作りたい、というところからスタートしました。もちろん、ASIMOだって握手はさせてもらえるし、「wakamaru」(三菱重工)みたいに手をつないで散歩できるようなロボットもあります。でも、子どもたちからしたら、もっと好きなようにロボットを触ったり、抱きついたりしたいだろうなというのがありました。なので、着ぐるみを被ることで、抱きつきたくなるようなかわいい外見に色々となれて、なおかつ柔らかくて、同時に軽いことをコンセプトに作ったのが、RICなんです(RICは、「Robot In Character」の略)。身長は1mから1m20cm(頭部を装備するかしないかで変わってくる)ですが、フレームは軽量化を徹底して設計したので、7kgに抑えてあります。

─ROBO-ONEに出てきた1mクラスの超大型機と比較すると、だいぶ軽いですよね。

中川氏:はい。それに、弊社のマスコットキャラクターである「ネコ店長」のように着ぐるみを被せたとしても(ネコ店長の中味もRIC)、10kg弱で済むというわけです。これなら、もともと軽いし、柔らかい素材で保護されているから、万が一子どもに向かって倒れてしまったとしても、骨折させたりフレームが刺さるというような、大ケガはさせずに済むというわけです。もちろん、触らせてあげるようなイベントの時は、倒れそうになったらすぐに支えられるよう、スタッフが横についています。

─子どもたちに触れさせてあげたいというのは、やはり女性らしい優しい感じがします。みんながみんなではないですけど、男性の研究者や技術者の場合、技術的なすごさや機械のギミックとしての面白さ、そしてデザイン的な面を強調するような傾向があるように感じますよね。もちろん、男の子たちの方がロボットがどちらかというと好きで、男の子たちはそういうところを喜ぶわけですが。

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中川氏:女性的な発想というのもあるかもしれませんが、自分としては、性別はあまり関係ないようにも思いますね。ロボットに触れさせてあげたいという考えは、どちらかといえば、日本科学未来館でASIMOのデモを担当していた時から感じていたことですので。あれだけ大勢の子どもたちが目を輝かせて見ているのに、安全性の面から握手ぐらいが限界。そういうところにジレンマがあったことは、影響しているかと思います。子どもたちからしたら、もっとロボットと仲良くしたいでしょうからね。

─あと、ネコ店長も、先日披露されて今や海外からもオファーが届いている「RIC Android」も、本当に人が入っていそうな感じです。特にRIC Androidはボディの体積があるので、誰かがかがんで入っているのではと疑ってしまいます(笑)。

中川氏:最初に着ぐるみの中に入って遊びましたけど(笑)、RICの中味がちゃんとフレームなのは、お見せしたとおりですよ。誰も入ってません。でも、実はそこも狙いのひとつでもあるんです。1m前後のサイズの着ぐるみって、仮に人に入ってもらうとしたら、幼児じゃないと無理なわけです(身長1mはおおよそ4歳前後)。幼児に着ぐるみの中に入らせて働かせるなんてことは、指示通りに動いてくれるとかくれないとかのレベルの前に、倫理的にもってのほかですし、労働基準法的にもダメですしね。そういう理由から、意外に思われるかも知れませんが、1m前後のサイズの動ける着ぐるみって、ロボットが中に入ることでしか実現できないんですよ。

─確かに、着ぐるみってみんな大きいですもんね。

中川氏:よほど体積的に大きく作って、小柄な人がヒザを着いて歩けるようにすれば別かもしれませんが。それに、1mぐらいの身長の方が、大人が入っている大きな着ぐるみよりも、子どもたちからしたら威圧感が少ないので、より親しみすいと思うんですよね。そういう観点もあって、1m大の動ける着ぐるみをターゲットにしているわけです。アールティのコンセプトのひとつに、「ロボットをロボット業界の外にアピールする」というのがありますので、そういう意味でも、ネコ店長もRIC Androidも大いに役に立ってくれています。

─ちなみに、RIC Androidは、RICではなく、その進化型の「RIC2」をベースにしていましたよね?

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中川氏:はい。RIC2は、RICと比べると上半身のフレームの設計が大きく変わっています。この秋にはRIC2をデビューさせ、ネコ店長の中味を変更する予定だったのですが、RIC Androidを作ることになったので、RIC2のプロトタイプのフレームを利用して製作したという経緯です。RIC2ベースのネコ店長で、今年のつくばチャレンジに出ようと思っていたのですが、来年の大会に参加しようと思っています。

─ネコ店長が1kmも歩くわけですか!

中川氏:そうです。今のところ車輪型のみで、歩いているロボットはいませんよね? 着ぐるみの関係で熱対策のことは考える必要があるでしょうけど、それほど暑くない時期だから、そんなには心配はしていません。重量そのものが軽いし、着ぐるみもクッションになるから、コース上でもし仮に転倒したとしても、ダメージも少ないんじゃないかと。もちろん、倒れないに越したことはないですが。

─二足歩行ロボットが公道を連続して1kmも歩いたら、ギネス記録になるんじゃないですかね? 研究室や実証実験レベルでならASIMOもそのぐらい歩いているのかも知れませんが。公道を自律して歩いてくとなると、それはすごいのではないかと。

中川氏:この後も、いろいろと考えていますので、アールティを楽しみにしていてほしいですね。

─まだまだ色々とお話を伺いたいところですが、そろそろまとめさせていただきます。それでは最後に、ロボット業界に興味を持っている10代の女性読者に向けて、ひと言をお願いします。

中川氏:自分のやりたいことに一筋にがんばれば、どんな形であれ、実現します。重要なのは、あきらめないこと、細くても続けることです。女性はいろいろな節目に自分の夢をあきらめることが多いので、自分にとって大事なことを見極めるのが大切です。ロボットは、女性にとって大いに助けになるツールにもなりえる存在です。もっと女性に入ってきてほしい分野でもあります。もしロボット業界を目指すのであれば、今はまだ萌芽期にあるロボット業界で心もとないかもしれませんが、10年後、20年後を見据えた形でかかわってほしいと思います。今、あなたが夢見ているロボットは、10年後、20年後には当たり前になっているかもしれません。なぜなら、今ある技術のすべては、開発者の夢や希望を叶えてきたからこそ、実在するのですから。まずは「私にできるかしら?」と思わずに、チャレンジしてみてください。

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─長い時間、ありがとうございました。

中川氏:どういたしまして。

というわけで、「ロボット業界で活躍する女性たち」の第1回は、株式会社アールティ代表取締役の中川友紀子氏にお話しいただいた。ぜひ、理工系を目指している10代の女の子たちには読んでいただきたい。また、すでに理工学部に進んでいる女子大学生も、卒業後の進路のひとつの参考としてみてほしい。その気になれば、女性でも起業はもちろん、ロボット業界で活躍できるので、ぜひご参考いただきたいと思う。なお、第2回は東京大学准教授の大武美保子氏にご登場いただくのでお楽しみに。(第2回の掲載はもうしばらくお待ちください)

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