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TOP >  学術・教育 >  教育 >  記事2010年08月04日-a

慶應義塾大学理工学部・山口研究室で
ヒューマノイド型ロボット「NAO」を使った夏の研究体験

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慶應義塾大学理工学部管理工学科教授の山口高平氏は、フランスのアルデバランロボティクス(国内では株式会社アールティが総代理店)製の学習・研究用ヒューマノイド型ロボット「NAO」を、人工知能系の研究に利用している人物だ。オントロジーと呼ばれる概念を用いて、NAO(画像03)と対話を重ねて、NAOに動作を披露させるという研究などを行っている。そして同大学理工学部では、系列の高校3年生を対象に夏休み研究体験を多数の研究室が毎年実施中だ。今年も80人が参加し、山口研究室にも3名が訪れ、NAOを用いた動作プログラミング体験を8月02日・3日の2日間に渡って矢上キャンパス(横浜市港北区日吉)で実施した。

今回、幸運にも選ばれた生徒は(山口氏の研究室は3名枠のところに4名の応募があった)、慶應義塾高等学校の早瀬亮君、慶應義塾湘南藤沢高等部の山岸優さん、そして慶應義塾女子高等学校の女生徒Aさん(仮名)の計3名。なんと、ロボット関連だから男生徒ばかりかと思ったら、ふたりが女生徒。しかも、山岸さんもAさんもC系のプログラミング言語を使えるという。山口氏も想定していたレベルを遙かに超えていたことから、随分と驚いたそうである。今後、ますますロボット関連の女性研究者が増えそうな雰囲気だ。ちなみに、3人の指導役として、今回の内容を考えた修士課程1年の小林昭太郎氏、同じく修士1年の保科宗淳氏、そして学部4年生の後藤あいり氏が担当。ロボットの女性研究者は確実に増えているのである。

3人はそれぞれ異なるテーマに挑戦。早瀬君のテーマは「音声認識によって体操・応援・ダンスを行なうロボット」で、山岸さんが「簡単なQAシステム」、Aさんは「じゃんけんしよう!」だ。3人ともパワーポイントでプレゼン資料を作成し、発表も行った。

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早瀬君は、ほかのふたりがPython(NAOが対応しているプログラミング言語のひとつ)でプログラムを組んで複雑なことをさせようとしていたことから、NAOのモーションに重点を置いたという。また、NAOはグラフィカルにプログラムを組めることから、女性陣ほど専門知識のない早瀬君でも問題なく自分の考えたシナリオの通りにNAOを動かすことに成功。音声認識で対話を進めて、NAOに体操、応援、ダンスのいずれかを披露させるという内容である。ちなみに各動作の内容はというと、体操がラジオ体操の深呼吸などの動作、応援は応援団風の動作、そしてダンスは懐かしの「YMCA」のポーズ(なぜ現代の高校生がYMCAを知っているのかは謎)。

工夫した点は、体操の激しいモーションでNAOが倒れてしまう危険性を極力なくすため、タイムシフト中で激しい動作を行うところは時間をかけるよう調整したという。また、難しかった点としては、そのタイムシフトの調整そのものを挙げていた。実際にNAOを動かして試行錯誤をしながら、徐々に修正を加えたそうである。そのほか、応援やダンスの最中に目のカラーリングをひとつひとつ変わるようにしたところも難しかったという。

早瀬君は、感想としてまず「体操に凝ってしまって、ダンスと応援が短いものになってしまったのが残念です」とした。また、「今のロボットの最先端ともいうべきNAOを見て、さらに実際に触って、自分でプログラムしたとおりに動かすことができてよかったです」とも答えていた。

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続いては、マイクロソフトが開発した言語「C#」を、プログラマーのお父さんに子供の頃から教えてもらって覚えたという、山岸さん。学校でもコンピュータクラブに入っているという。「簡単なQAシステム」は、一桁の足し算か引き算かかけ算をNAOにランダムに出題させ、解答を音声認識して正誤を判定させ、それぞれ異なるモーションで応答させるという内容だ。Pythonで、80行ほどのプログラムを書いたという。

プログラムの流れとしては、まず1から9までの数字をふたつランダムに決め、さらに足し算か引き算かかけ算かをランダムに決める。次に計算して答えを出し、回答者の返答を待つ。音声と一致する数字を答えとして認識し、その返答が正しいかどうかを判断。正解の場合は、拍手モーションを披露し、「正解です。まだ続けますか」とし、もし続ける場合は最初に戻り、続けない場合は終了となる。解答が不正解の場合は「違うよ。もう1回」と解答を再度促し、回答者の返答を待つところへ戻って繰り返すという具合だ。

山岸さんの感想は、「ほんの数行の命令で、ロボットに思い通りに話をさせられることが面白かったです」とした。ただし、「人の言葉の認識は難しかったです」と、音声認識の技術的な難しさを実感したようだった。

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最後は、Aさん。彼女もコンピュータクラブの所属で、Cを使えるという。今回はPythonで120行ほどのプログラムを書いたそうだ。「じゃんけんしよう!」は、NAOとじゃんけんをして、勝ったか負けたかでNAOがそれぞれ感情を表す(異なるモーションをする)というもの。Aさんは、モーション作成が好きだそうで、最初にじゃんけんをNAOが提案するのだが、その時、不思議なポーズを取ったり、勝ったり負けたりした時はもちろん、じゃんけんの誘いを断った時もすねるなど、凝っていた。

なお、じゃんけんといっても、さすがに人同士で行うよう同時に手で形を作ってという風にはいかないので、音声認識技術を用いて、NAOに人が選んだ形を判別させるという方法を用いている。そのため、一見すると、人がしゃべるタイミング(NAOが、音声認識を開始する瞬間の合図がある)よりも、NAOが腕を出すタイミングが遅いため、後出しに見えてしまうのだが、実際にはプログラム上では何を出すか決めてから人に聞いてくるようになっているので、NAOが不正を行っているわけではない。

感想として、Aさんはまず「NAOが倒れないように動かすことが難しかったです」とした。工夫した点は、じゃんけんの結果によりNAOの行動を変えることと、あいこの時にもう1回じゃんけんをさせることだそうだ。楽しかった点は、「NAOの動作を作れたことです。あと、プログラミングにも触れられたことです」としている。

3人のプレゼン後、高校生たちを指導した大学生3名に感想を聞いたところ、紅一点の後藤氏は「高校生なのにプログラムを書けてしまう子がふたりもいたことに驚きました。あと、モーション作成を興味を持って、楽しく取りかかってもらえたことがよかったと思います」とした。小林氏は、「今回の内容は僕が考えたのですが、思ったよりも先に進めて、プログラムまでできてよかったです。モーションも、僕らが作っているものより難しいものを作っていたので、面白かったです」。高校生3名と動揺に、慶應義塾系列の高校から進学してきたという保科氏は、「後輩たちと一緒に研究体験をして、優秀だなと非常に感じました。手伝いながら、自分自身もとても楽しめましたし、いい経験だったなと思います」とした。

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そして最後に、山口氏に話を伺った。「実質半日しかやってないのに、これだけ多彩なことを実演してもらって、本当によかったと思っています。こちらが想定していたレベルを超えるスキルを持った生徒もいて、そこは非常に驚きましたね。今後の活躍が楽しみです。ぜひ、機会があったら、3人にはこの研究室に来てほしいですね」と嬉しそうに語ってくれた。

理系離れが進んでいるといわれる中、こうして優秀な高校生たちに出会うと、非常に取材のしがいがあるというもの。将来、3人には山口研究室に入って、ぜひNAOを活用した新しい研究を発表してもらいたい。

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