【ロボットのいる施設を訪ねて】第2回:NEDOが開発に関わった
8機のロボットが待つ「科学技術館 展示室NEDO-Future Scope」
現在では科学技術系の展示施設も全国規模で随分と多くなった。記者は江戸っ子なのだが、さすがに東京であっても30年、35年前ともなると、そうそう科学系展示施設はなかった。当時は、国立科学博物館と、今回紹介する科学技術館が双璧だったのである(ほかにもあったのかもしれないが、残念ながら知らなかった)。
個人的な話をさせてもらえば、アクセス面では国立科学博物館の方が上だったが(自転車ですら行けた)、足を運んだ回数は圧倒的に科学技術館の方に多かった。小学校の社会科見学でも来たし、親に連れてきてもらったことも何度かあるし、友達と訪ねたこともある(当時は、小学生が遠くまで行っちゃダメ、なんてうるさくなかった)。
同じ科学系展示施設でも、「技術」とつく科学技術館の方が、コンピュータに触れたりとか、シミュレータ風の装置もあったりとか、機械を「触る」のが大好きだった少年時分の記者にとっては、下手なテーマパーク(当時は遊園地という言葉しかなかったが)よりも断然面白かったのである。なので、そんな科学技術館に大人になって取材に来ることがあるとは思ってもいなかったし、ましてや自分でメディアを立ち上げて、紹介記事を書いてしまうなど、もってのほか。実に感慨深いものがあるのだ。
科学技術館、今ではさすがに建物に年期が入っているが、それもそのはずで、記者より5歳も先輩の昭和39年04月の開館。財団法人日本科学技術振興財団が、現代から近未来の科学技術や産業技術に関する知識を広く国民に対して普及・啓発することを目的として、設立したのである。それにしても、立地している場所がすごい。北の丸公園の中にあり、位置的には日本武道館と皇居の間だ。建てようと思ったところで普通は建てられないような場所に立地しているのである。
外観は当時のままだが、コンテンツに関しては当たり前だが常々アップデートしている。記者が子供の頃に遊びたくて仕方がなかったコンテンツなどはもうないので、ある意味残念なのだが。記者が非常に好きだったのは、なんせ30年前の話なので、さすがに記憶が定かではないのだが、カロリー計算をコンピュータで行なえるというような展示室だった。とにかくコンピュータに触れる、正確にはキーボードを叩いて「入力する」という行為が楽しかった記憶がある。
近年はロボット関連の展示室ももちろんあり、子供時分に訪れていたらそれはもう大喜びだったろうというのが、4階の「NEDO-Future Scope」だ(画像02)。また、年に数回ほどロボット関連の特別展示も開催されていたりもする。基本的に、科学技術館は「テクノロジー」を扱っているので、ロボタイムズ的には正直なところ、全展示室を紹介したいぐらいなのだが、ここはロボットのみに絞って紹介したい。
NEDO-Future Scopeは、その名の通りNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のコーナーで、同機構が目指す豊かな未来をメッセージする場である。Scopeとは「まなざし」のことであり、ひとつひとつの展示物のことを示す。NEDOが開発に関与したロボットやそのほかの技術が展示されているという具合だ。
ロボット関連では、まずデモを行っていたり(動作していたり)、触れたりコミュニケーションできたりする機体が4体ある。「パラサウロロフス型恐竜ロボット」(産業総合研究所/川田工業)、「アクトロイド」(ココロ)、「PaPeRo(パペロ)」(NEC)、「パロ」(知能システム/産総研)だ。
パラサウロロフス型恐竜ロボット(画像03)は、展示室の入口すぐのところで、オリに入れられたようなイメージで設置されてデモを行っている。産総研のロボットである「HRP」(Humanoid Robotics Project)シリーズの開発で培われた技術を応用して作られており、愛・地球博にも参加した。前後長が3.5m、体重約80kgで、自由度(関節)数は26。リアルな外観と自然な動きのため、絶滅した生物であることを知らない子どもなどは、本物と間違えてしまうかも知れないというほどだ。ちなみにそのリアルな外観は、この後紹介するアクトロイドを開発しているココロが手がけた。
アクトロイド(画像04)というと、ココロのリアルな外観と自然な動作が特徴の女性型ロボットシリーズ。同館に展示されているのは、愛・地球博に出展していたもので、ブースの中に女性が座っている案内嬢ロボットだ。音声認識機能があるので直接質問することができ、そして内容も変更されているので、同展示室の案内をしてもらえるようになっている。プライベートなことにまで答えてくれたりするが、一般的に女性に対して失礼に当たるような質問をすると、さすがに答えてもらえないことも。嫁にもらいたくても、口説き落とそうとするのは、なかなか難しそうである。
PaPeRo(画像05)はNECが長年開発を続けている小型のコミュニケーションロボット(こちらも愛・地球博に出展)。非常にかわいいロボットなのは、ご存じの方も多いことだろう。現在は、型番で「R500」と呼ばれる最新型がレンタル業務で貸し出されているのだが、ここにいるのは実は1世代前の「チャルドケアロボット」型のPaPeRo(サイズや形状が微妙に異なっていたり、前面にスピーカーの穴があったり、カラーリングが少し違うなどの差異がある)。今ではあまり一般では見られないはずなので、意外とレアだったりする。
パロに関しては、アザラシ型のセラピーロボットといえば、説明不要なのではないだろうか。日本製サービスロボットの中では、海外にも多数の顧客のいる、最も台数の出ているロボットである。ここでは常時触れられるのが特徴で、子どもたちの人気者となっている。なお、お子さんに遊ばせる時は、保護者の方はあまり乱暴に扱わせないようご注意を。
そして展示されているロボットも4体。ヒューマノイド型ロボット「HRP-I(ワン)」および「HRP-2 Promet(プロメテ)」(以上、産総研)、警備ロボットの「Mujiro(ムジロー)/Rigrio(リグリオ)」(テムザック)と「ALSOK Guard Robo i(ガードロボi)」(綜合警備保障)だ。この4体は見ようと思っても今ではそうそう見られないので、結構レアである。
産総研のHRPシリーズといえば、2009年発表された青年女性型の「HRP-4C」(こちらで紹介)が有名だが、その先祖たちがHRP-IとII。HRP-I(画像06)は、どこかで見たような機体だと思うかも知れないが、それもそのはずで、実はホンダが1997年に発表したプロトタイプ「P3」なのである。産総研ではこれをプラットフォームとして研究開発を行い、オリジナルの動作制御ソフトウェア(パラサウロロフス型恐竜ロボットにも使われている)を実装した全軸サーボモデル「HRP-1S」を開発し、この後に紹介する第2世代のHRP-2などにつながっていくのである。
そのHRP-2(画像07)は、キャラクター・メカデザイナーとして著名な出渕裕氏がデザインしたことで知られる機体。顔のデザインが、マンガやアニメで人気を博した「機動警察パトレイバー」に出てくる主役メカ「AV-98イングラム」などに似ている感があるのはそれ故である。川田工業、安川電機、清水建設、ゼネラルロボティクス、産総研知能システム研究部門のヒューマノイド研究グループと3次元視覚研究グループが開発に関わっており、2002年に発表された。ヒューマノイドロボットの研究用プラットフォームとして、何体も作られた。
テムザックのMujiro/Rigrioは屋外対応型巡回警備ロボットで、2005年02月に発表され、愛・地球博などにも出展した機体。実際に展示されているのはMujiro(画像08)で、ここにはない青い機体がRigrio。移動速度はRigrioの方が速く、最大でMujiroの倍の時速7km/hを出せる。身長は1.5m、体重は約130kgと、ユーモラスな顔だが、警備ロボットらしく威圧感もある。
ALSOK Guard Robo i(画像09)も愛・地球博に出展し、実証実験を行った屋外巡回・警備監視型ロボットの研究用プロトタイプ。綜合警備保障は1982年からロボットの研究をスタートさせ、1号機は1985年09月に自動消火タイプとして発表。ALSOK Guard Robo iは通算で7機目となる機体だ。警備型ではあるが、受付および案内機能も備えている1機。
以上、8機のロボットが展示中のNEDO-Future Scope。意外とレア度の高い、ロボット好きなら見ておく必要のある機体がそろった展示施設のひとつなのである。