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TOP >  コラム >  ロボット業界のキーマンに聴く >  第1回:千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)古田貴之氏 Vol.2

【ロボット業界のキーマンに聴く】第1回:千葉工業大学fuRo所長
古田貴之氏 Vol.2「ロボットが産業化しない理由」

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ロボット業界の動向や、企業の製品の今後の展開などについて第一人者に話を伺うコーナー「ロボット業界のキーマンに聴く」。8月は第1回(ひとり目)ということで、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(Future Robotics Technology Center:fuRo、フューロ)所長の古田貴之氏にご登場いただいている。今回は、古田氏のVol.2だ(Vol.1はこちら)。前回に引き続き、なぜ日本ではロボットがなかなか産業として大きくならないのかという問題点と、古田氏が目指していることについてのお話をしていただいた(写真撮影協力:日本科学未来館)

前回は、これまでのほとんどのロボットが、陶芸家の至高の一品もののツボや、研究所で開発された栄養たっぷりの何倍もヘルシーな野菜だけど数える程度しかない野菜と等しいことが問題点だと、指摘した古田氏。一般の人にとって、それが使えて生活が便利になったり楽しくなったりするか、もしくは実際にお店なり自分で買ってきて調理して食べておいしいと感じなければ、至高のツボもヘルシーな野菜も意味がないのは当然である。古田氏がfuRoを設立したのは、人々に届くまでの流通やお店に当たる部分を作り上げることも理由のひとつなのだ。

なぜ、現状で、ロボットが一品もの状態となって、人々の生活にまで入っていけないかという点に関しては、まず多くの研究者が、共通した問題点を抱えているという。その問題点とは、日本の研究者の多くが、基本的に自分の作りたいロボットにしか興味を持っていないことだそうだ。一般の人々が利用するサービスのことまで考えている人はあまりいないのだという。どの研究者もどこの研究機関もデモンストレーション用のロボットは作る。でも、パフォーマンスを見せておしまい。基礎技術をデモンストレーションしてみせるということは、それはそれで重要なのだが、それがすべてであってはならないのだ。

デモンストレーションするロボットの代表格といえばASIMOだが、ASIMO(とそのプロトタイプ)がセンセーショナルだったのは、それまであった技術を初めて統合して二足歩行ロボットを作れるということを見せたからである。古田氏は、みんながASIMOと同じスタイルを取ろうとすることに問題があるとしている。せっかく、日本には高性能・高機能のロボットを開発する技術があるのに、開発で止まってしまって、その先のビジョンを描けていないことが大きいのだ。聴くところによれば、行政も「ロボットについては、完成するまでは支援するけど、あとは自分たちでやってください」というような風潮があるようで、その点に関しては後ほど改めて古田氏に伺いたい。

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話を研究者の問題点に戻すと、発表会などで、研究者は当然ながら、一般レベルでどうやって役立つのかといった質問をされ、もちろん大概の方は答えている。しかし、実際のところ具体的なロードマップを描いている研究者がどれだけいるかというと、それはあやしく、ただ単に希望を口にしているに過ぎない場合も多いという。仮にロードマップを描いていたとしても、どれだけ本腰を入れて実現しようとアクションを起こしているかという点も、それまた疑問である場合が多いと古田氏は語る。

「ほとんどバーチャルの世界。きっちりとマイルストーンを引けて、戦術を立てて、企業と連携して、事業化の計画を立てて、ビジネスモデルを組めているのかと。いつどういう計画なのかと聞かれると、『それについては、私は知らない』という人が実は多かったりします。希望を口でいうのはいくらでもできますけど、計画を実行しているかというと、疑問ですね」。そのため、古田氏はプロダクトデザインやライフスタイルの構築まで考えている。それも、fuRoを設立した理由のひとつだ。

ライフスタイルの構築とはどういうことかというと、例えばiPodのような音楽プレーヤーを考えてみてほしい。ハードウェア単体を取ってみれば、日本のメーカーもいくらでもいいものを作っている。でも、なぜ今は携帯音楽プレーヤー市場でアップルが強いのか? それは、音楽プレーヤーを使ったライフスタイルの提案や、文化作りとか、サービスの展開の面でアップルに確たる戦略があったからだ。iTunesによる音楽配信サービスがあり、iPodで音楽を聴くというライフスタイルがカッコいいという文化を創造することができたから、アップルは音楽プレーヤー市場で成功したのだという。日本メーカーはもの作りを得意としていても、「ものごと作り」まではまったく考えておらず、そこで負けてしまったというわけだ。

また、それはロボットの研究者にも当てはまる。そういう体質のせいで、ロボットがなかなか産業にならないのだ。技術の凄さは一般消費者にとっては二の次であって、どれだけ彼らを満足させられるかということにこそ、価値がある。だが、なかなかそこまでに考えが及んでいる人たちが少ないのが現状らしい。

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ロボットが走る技術、人の表情に似せる技術、地図を作る技術といったものは、たとえていうなら、キャベツやニンジンや大根みたいな、素材だという。どの技術も凄いが、「でも、それで何の役に立つの?」となる。「どういうサービスが展開できて、どう生活が変わるのかが、一般消費者にとっては、技術がどれだけ凄くても優れていても、関係ないんです。どういう恩恵を受けられるかがポイント。例えば、『このエアコンはお掃除なし3年』というのは喜ばれますが、『そこにどんな技術が入っているか』などというのは関係ないですよね。料理も一般の人にとっては、そこにどんなヘルシーな特別な野菜が使われているかということは最重要ポイントではない。もちろん、素材の安全性とか栄養面などを考慮する方もいますが。でも、メインはどれだけおいしい料理を作れるか、その料理をいつどこで味わえるかですよね? そこが重要なんです」。

前回も触れたことだが、ベータカロチンたっぷりのニンジンはそれはそれで大事だが、それよりもそのニンジンを使った料理の味がどうなるかという方が、一般の人にとってはもっと重要というわけだ。今は、「ベータカロチンたっぷりのニンジンできたよ、凄いでしょ」という状態。でも、いつ食べられるのかを聴いても、「これ1本だけです。誰かが料理してくれるでしょ?」となってしまっていることが問題なのだ。それに対し古田氏は、そのニンジンを何本も作って、ニンジンを誰もが使えるような形に加工して、ちゃんと料理して、料理を出す店まで作って食べられるようにしようとしているのである。「例えていうなら、食文化を作るようなものです。しかし、そこをあまりにも怠っているとのが日本の現状です。本当に、危機感ばっかりがつのりますね」。

では、どうすればいいのだろうか。「でも僕は、未来はいつも明るいと信じています」という古田氏。前回した話と被るが、古田氏は「色々な人がひとつだけの特別なニンジンやキャベツを作るのなら、それを量産しましょう。さらに、料理してみんなの口に運べるようにしましょう。そこを誰もやらないのだったら、僕ががんばろうかなと思っています」と目標を語る。高い視点から遠くまでを見通し、日本のロボット業界に欠けている部分を作ろうということに、古田氏は使命をもって臨んでいるのだ。(以下、Vol.3へ続く)

Vol.3では、ロボット業界の研究者の話に続き、産業界の問題点にも触れていただく。次回は、8月20日(毎週金曜日に更新)にアップの予定です。なお、Vol.2は編集作業の遅れでアップが遅くなってしまい、ご迷惑をおかけしました。お詫びいたします。

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