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TOP >  コラム >  ロボット業界のキーマンに聴く >  第1回:千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)古田貴之氏 Vol.1

【ロボット業界のキーマンに聴く】第1回:千葉工業大学fuRo所長
古田貴之氏 Vol.1「古田氏の目指すもの」

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日本のお家芸といわれてきた、ロボットテクノロジーだが、ここのところ諸外国が力を入れており、それが揺らぎ始めている話を聞く。はたして、日本のRT、さらに科学技術全般は世界的な視点で見て、今後どうなっていくのか。また、国内のロボットビジネスが、長引く経済の低迷の影響もあって、撤退などの話を耳にするようになってきた。この「ロボット業界のキーマンに聴く」では、そんな日本のロボットの、学術、ホビー、ビジネス、教育など、さまざまな分野に関して、識者に話を伺っていく。

記念すべき第1回は、ロボット関連のさまざまな分野をまたいだ形で、総括的な話を伺いたいと思い、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(Future Robotics Technology Center:fuRo、フューロ)所長の古田貴之氏にご登場いただいた。古田氏自身とfuRo、日本のロボット業界の状況、現在開発中の最新ロボットについてなど、4回に分けてお話を紹介したい。Vol.1は、まずプロローグとして、古田氏と同氏が設立されたfuRoについてと、古田氏がfuRoを通してロボットで何を目指しているのかなどを聞かせていただいた。(撮影協力:日本科学未来館)

古田氏がfuRoを設立したのは2003年06月。古田氏は1968年生まれなので、設立は35歳の時の話である。それ以前は、独立行政法人科学技術振興機構のERATO北野共生システムプロジェクトで、ロボット研究チーム(「morph」シリーズを開発したチーム)のリーダーを務めていた。その中で、産学連携でロボットの新産業を創成するということに、国の機関では限界を感じていたという。そして、プロジェクトの終了に伴ってチームが解散してしまう時期が近づいてきた時に、千葉工業大学からのチーム全体の移籍話が届き、「ロボットで世の中を変えたい」という思いを実現するためにもfuRoを設立したのである。ちなみに略称のfuRoは、イタリアの古語で「存在」や「生命」、「本質」という意味もあるそうだ。ロゴは、ロボットの進化を象徴した、染色体をイメージしているそうである。

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fuRo最大の特色は、日本でも唯一の学校経営法人の直轄であるという点だ。どういうことかというと、一般的な大学の研究機関は、教育機関である大学の所属である。その大学を学校経営法人が運営しているわけで、学校経営法人から見たら、研究機関は孫的な位置付けだ。しかし、fuRoは経営法人の千葉工業大学の直轄であり、教育機関としての千葉工業大学は上部組織ではなく、関連他部署という並列の存在なのである(この位置付けにより、千葉工業大学のすべての学部・学科ともつながれる)。経営法人と教育機関も同じ千葉工業大学という名称なので同一視してしまいがちだが、正確にはその両者は異なっており、あくまでもfuRoは経営法人の千葉工業大学の直轄であり、それが日本で唯一というわけだ。

古田氏には、日本では「ロボットが産業になる」といわれている中、なかなかそれが実現していない状況を打破したいという思いがある。その点は当サイトとしても伺いたいポイントのひとつだったので、理由を聞いてみた。すると、「当たり前のことです」という答えが返ってきた。日本では、実に多くの大学や研究者、企業などが次々とロボットを発表し、優れた技術を持っているのは誰でもわかるはずだ。そうしたロボットに使われている技術を応用すれば、仕事や生活のさまざまな面が変わることは間違いないだろう。だが、実際のところ、なかなかロボットは産業にならない。お掃除ロボットの「ルンバ」など数える程度。古田氏にいわせれば、「僕からいわせてもらえば、指折りで数えられる程度では、話になりませんね」という。なぜ産業にならないのか?

「これまでの多くのロボットは、陶芸家の至高の一品もののツボのようなものなんです。すごいのは間違いないけど、それが我々の生活に入ってきて、生活が楽になったり面白くなったりするかというと、ならないですよね。芸術品ですから『使う』のではなく、『目で見て楽しむ』のが正しい、ということですから。そこに使われている技術も、『いつか誰かが量産できるような方法を考えてくれるだろう』と、人任せだったりします。」となかなか厳しい言葉。自動車に置き換えてみれば、さらにわかるはずだ。メーカーが大衆車を作っているから、その恩恵を多くの人が授かっているわけで、もし何千万円とか億を超えるようなスーパーカーしか作っていなかったら、自動車産業は産業としては成り立っていないことだろう。

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「栄養たっぷりの従来よりも何倍もヘルシーな野菜とかに例えてもいいですよね。研究所でひとつふたつ作った、というような。でも、一般の人の手には届かないわけです。それでは、産業になりませんよね。もちろん、そういうロボットもありですけど、みんながみんなそういうスタイルだからおかしいわけです」と古田氏は語る。ものづくりの技術は、若者の理工系離れとか、団塊の世代のエンジニアの引退で技術が伝承されずに失われている問題などがあるが、それでも間違いなく日本は技術がある。しかし、もの作りではなく「ものごと作り」=生産者・開発者から一般の人々の手に渡るまでの総括的なシステム作りが、考えられていないというわけだ。

「ロボットのさまざまな技術が素材だとしたら、それを調理して大勢の人に食べてもらえるようにしなければ、意味がないですよね。一般の人々にとっては、自分たちがおいしい思いができなければ、意味がない。そのためにはお店が必要だし、お店には料理するコックとかシェフが必要だし、素材を産地からお店まで運ぶ流通の仕組みなども必要です。栄養たっぷりの野菜をいくら作っても、それがおいしい料理となって人々の口に届かなければ、喜ばれないわけです」。栄養たっぷりの野菜がおいしい料理となって人々の口に届く=ロボットが人々の生活に入って役立つ仕組みを作ることも、fuRoを立ち上げた理由のひとつなのだという。ロボットの研究や開発ももちろん重要で、古田氏自身行っていることだが、それをも含んだ総括的なもっと大きな仕組みを作ろうとしているのである。(以下、Vol.2へ続く)

Vol.2では、日本の現状に対する危機感、危機的な状況に対する打開策などについて古田氏に話をしていただきます。8月13日(金)にアップの予定です(毎周金曜日に更新)。

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