白熱のロボスプリント狭山大会2010リポート
同競技会史上初の写真判定で優勝者が決定!
ロボスプリントは、財団法人ニューテクノロジー振興財団が提唱している、車両型ロボットを使用した初心者向けのライントレース系競技会だ。同競技が日本一盛んといわれるのが埼玉県狭山市で、8月08日に「ロボスプリント狭山大会 2010(第4回 ロボスプリント 狭山市立博物館大会)」が開催された。
ロボスプリントは、主催者がどの車両型ロボットを使うか、全車自作のオリジナルから市販品のキット1種類のみのワンメイクまで、自由に決められるコンセプトが特徴だ(そのほか、競技会は地域主体、インターネット上で成果と経験を交流などがある)。狭山大会では、スマッツ製のロボットキット「ロボスプリント」(税込み3990円)を採用したワンメイク競技会となっている。ちなみに同キットは、財団法人ニューテクノロジー振興財団が、バンダイロボット研究所の技術協力を得て開発し、スマッツが製作協力している後輪2輪駆動型の車両型ロボット。ライントレース競技用の入門者向け製品である。この6月からは、改良型の「ロボスプリント ネオ」が発売されており、今回はその新型が大多数を占める大会となった。
大会は年1回、毎年夏休み期間中の8月に開催されており、今年で早くも4回目を数えている。年々参加者の幅が広がっており、大会運営を担当する地元の埼玉県立狭山工業高の生徒たち以外にも、他地区の工業高校の生徒や地元小中学生、さらには大学生らも参加し、熱いバトルが行われた。
競技(厳密には決勝トーナメント)のルールは、8mの直線コースが2つ用意されており、2台で同時に走ってどちらが速いかを競うというものだ。いってみれば、ロボット版ドラッグレースという感じだ。3本勝負で2本先取した方が勝者となる。ただし、ゴールラインから1m先までのブレーキングエリア内で止まれないと、どれだけ早いタイムを出したところで無効となる。遅くても、きっちりゴールエリア内で止まった方が勝ちとなるのだ。
コースは直線だが、スタートエリアがコースの脇に設けられているので、斜めに進入する形がポイント。機体は黒地のコース中央に描かれた白線をセンサで検出して、2輪の駆動輪の左右の回転数を調整して進行方向を自動修正しつつ(走行中は、外部から一切コントロールしてはならない)ゴールを目指していくので、立派なライントレース系の競技内容となっているのだ。センサ自体の感度やセンサを取り付けたアームの開度を調整できるし、PCや転送ケーブルなどを用意すればデフォルトで用意されている基本プログラムに手を加えたり新規に作ったりすることも可能。シンプルでいて安価にライントレース系競技の基礎を学べる競技となっているのだ。
競技会には、今年は32台が参加。午前中にまず予選が実施され、3回の計測を行い、予選順位を決定。上位20人が午後の決勝トーナメントへと駒を進める仕組みだ。予選タイムは、最もいいタイムを採用することになる。また、計測しなければフリー走行としていくらでも走れるので、セッティングを行うための重要な時間として活用可能だ。決勝トーナメント自体は止まることを重視した安全策を採る傾向なのに対し、予選は若干バクチ狙い的にギリギリのところを狙う傾向である。
なお、スマッツ製ロボスプリントは、1回の走行でそれなりに電池を消費するので、走行を繰り返すことによるバランスの変化もポイントだ。電池が新品の時はモータの出力がちょうどバランスが取れていても、減ってくるとタイムが落ちたりライン検出がうまくいかなくなったりすることもある。逆に、減ってくると最高速が落ちてブレーキングエリアでキッチリ止まれるようになるといった場合も。モータなどパーツの若干の製品クォリティの固体差、ハンダ付けを行うので組み立て時の技量の影響、電池ボックスをどこにセットするか(後方なら駆動力重視、前方なら制動力重視)などが意外と影響するのである。そのため、ベストセッティングを出しに行く作業は、まさにモータースポーツ。センサ感度やセンサアーム開度の微調整、電池の減り具合、前部で車体を支える支柱(前部に車輪はない)の底面の抵抗の度合い、電池ボックスの位置など、奥が深いのだ。
そんな中、予選では、狭山工のKくん(本サイトは、未成年については本名を掲載しないルールとしております)の「ほしくず一号」が4.88秒をマークし、1位を獲得。昨年は埼玉工業大学の村石さんが4.44秒という、驚異的なタイムを出したが、それに迫るタイムを見せた。32選手中、タイム計測ができた選手は20名で、平均タイムは7.52秒。4.88秒がどれだけ早いかがわかるはずだ。予選タイムは、以下の通り。
【予選順位およびタイム】
1位:4.88 ほしくず一号/狭山工高
2位:5.17 TWIST/狭山工高
3位:5.43 竜神丸ver2.9/埼玉工業大学及び黒い箱
4位:5.90 2時間半/狭山工高
5位:6.08 ロボット52/中央中
6位:6.24 ロボG(ゴールデン)/狭山工高
7位:6.86 ファントロンSC1/黒い箱と東京電機大学
8位:6.99 秋采/狭山工高
9位:7.12 子まる1/野田中
10位:7.28 ロボイソメNeo/銀座商店街
11位:7.65 O2/西武小
12位:8.09 スプリント/入間小
13位:8.09 ガイア/山王小
14位:8.37 川工3号/川口工
15位:8.55 酔いどれ天使/川口工
16位:8.63 あさま/入間野中
17位:8.65 クワガタロボット/笹井小
18位:10.06 iron/埼玉工大
19位:10.09 Exp,Re_KAJTWARAI/黒い箱
20位:10.23 川工1号/川口工高
そして午後になり、決勝トーナメント。20名なので予選13~20位は1試合多い形の変速トーナメントだ。決勝は、小・中学生対高校生というスポーツでは普通あり得ない年齢差対決に始まり、狭山工対川口工業高校という甲子園のような高校生対決、狭山工教諭の畠山氏対教え子の師弟対決など、さまざまな見所を見せつつ、トーナメントは進行。中には、予選タイム10秒23で20位通過だった川口工のYくんの「川工1号」が、3回戦で突然のセンサの不調を来した「ほしくず一号」を破るなど、波乱の展開も。速くても止まれない機体もあり、予選とはまた違う戦い方が必要とされる決勝であった。
そんな中、準決勝は、野田中Hくんの「子まる1」(「まる1」は、本来は丸囲みの中に算用数字の1が入る記号系の文字)、狭山工Nくんの「2時間半」、埼玉工業大学及び黒い箱の村石さんの「龍神丸Ver2.9」、そして銀座商店街の畠山氏(狭山工教諭)の「ロボイソメNeo」となった。子まる1対2時間半は、2時間半の勝利。続く、ロボイソメNeo対龍神丸Ver2.9は、龍神丸Ver2.9が勝利。決勝戦は、2時間半対龍神丸Ver2.9となった。
決勝に先立って行われた3位決定戦は、子まる1対ロボイソメNeo。完全にノーマルの機体で、きれいに組み上げただけというロボイソメNeoだったが、3位を獲得。1名を除いて狭山工生たちの壁として立ちはだかったのであった。
そして決勝戦。まず昨年は4.4秒を出した村石さん(昨年は「龍神丸」)だが、「去年ほど出せていないんです」と、5秒を切るか切らないかという模様。予選も5.43秒が最高で3位だ。一方の2時間半は予選は5.90秒で、4位。ただし、異音を発しながら走っており、ひときわ目立つ1台だ。実は、電池2個による大パワーを利用し、それでもきっちりと止まれるよう、特別な工夫を施しているための異音なのである。前部の支柱をわざとグラグラにしてあるそうで、これ以上ないというぐらい抵抗が増しており、ゴールするまでは電池2個によるパワーで高速走行するが、ブレーキを開始すると一気に抵抗が増えてちゃんと止まるという仕組みなのだ。
試合は、まず1本目を2時間半がゲット。ゴールへ向かって右側のAコースを走った龍神丸Ver2.9だったが、センサが微妙過ぎたようで、余計な何かに反応したらしく、途中で止まってしまい、1本目はリタイヤだ。ちなみに、龍神丸Ver2.9は、センサの使い方のコンセプトがほかとはまったく異なる。通常は左右のセンサアームの間に白線が来るようにし、機体が右に向かったら左のセンサが白線(正確には、白線左側の、黒地と白線の接する境界)を検出して進行方向をやや左に修正、機体が左に向いたら右のセンサで……という具合だ。しかし、龍神丸シリーズは、2cmほどの白線の左右(白地と黒地の境界)を検出しているのだ。龍神丸シリーズは、機体が右に向いたら右のセンサが境界を検知し、左向きに微修正……という動きをするのである。それだけ、センサの感度が微妙に設定されているのである。2本目は、コースを変えてスタート。僅差で龍神丸Ver2.9が先にゴールし、イーブンに。
そして再びコースを入れ替え(1本目は、通常はジャンケンして勝った方が好きな方を選び、3本目もまた通常はジャンケンで決める)、ジャンケンに勝ったNくんがBコースを取り、2時間半が有利に思われた。スタートし、ほとんど差がないまま、2台はゴールへ。今度は龍神丸Ver2.9もコース途中で止まることはなく、まさにゴールライン直前までほぼ一線状態。結局、見た目には勝敗がわからず、同着じゃないかというぐらいで、タイムを計っているものの狭山工生たちによる手動のため、判断が難しい状況に。
しかし、そこでたまたまゴールラインの若干斜めだがほぼ正面に陣取っていたのが記者。しかも、これまたたまたまゴール直前の2台を撮影していたという運の良さ。ピンボケ画像ではあったが、明らかに2時間半の方がゴールに近く、審査員団(ロボスプリント提唱者のひとりの明星大学情報学部教授の飯島純一氏、狭山市立博物館の木村館長、財団法人ニューテクノロジー振興財団田代泰典氏)に見せたところ、写真は確たる証拠ということで、2時間半の勝利が決定。運営も担当する狭山工業高の出場生徒は、はっきりいって少なくとも表彰台以上(4位から表彰される)を義務づけられているようなもので、そんなプレッシャーの中、見事優勝を果たした。Nくんは、優勝するとしても予選1位のKくんだろうと思っていたようで、まさか自分でいいのかな? という表情。「優勝できてよかったです」と照れた感じでコメントを出してくれた。
また来年も行われると思うので、中学の技術家庭や工業高校などの教材として取り上げてみたいと考えている先生方や、クラブの活動として参加してみたいと考えている生徒さんは、ロボスプリントをチェックしてみるといいはずだ。また、小学生や中学生のお子さんにエンジニアリングやロボットの初歩を覚えてもらいたいと考えている保護者の方にもオススメ。今年も大会前に狭山工で3年生が指導役として、スマッツ製ロボスプリントの製作教室を開くなど、ハンダごてを使って、ちゃんと試走まで行なえる工作教室も実施しているので、ぜひ参加してみては同だろうか。
また、今回、遠征してきた川口工業高校だが、生徒たちを引率してきた教諭の小坂洋平氏(自らも参加)によれば、地元でもロボスプリントの大会を開けないかと検討中だという。同競技会は少しずつ広がっていく雰囲気のようで、ぜひ草の根的にどんどん広がっていってほしいと思うところである。