サブカテゴリアイコン-ビジネス・政策記事一覧 サブカテゴリアイコン-ビジネス記事一覧 サブカテゴリアイコン-政策・プロジェクト記事一覧

日本の生活支援ロボットは世界をリードできるか!?
「生活支援ロボット安全検証センター」リポート

画像

平成21年度から25年度までの5年間に渡って進行中の独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の「生活支援ロボット実用化プロジェクト」。介護、福祉、家事などをサービスする生活支援ロボットを本格的な産業に育てることを目的とし、20に及ぶ日本の企業や大学、財団法人、独立行政法人などの多様な組織が参画する巨大プロジェクトだ。平成21年度には16億円、平成22年度には15億円の事業費が既に投入されているのだが、その拠点となる施設の「生活支援ロボット安全検証センター」(以下、RSセンター)が茨城県つくば市研究学園(近年設定された、仮に近い新しい地名)にいよいよ完成し、12月27日にオープニングセレモニーが行われた。大畠章宏経済産業大臣や上月良祐茨城県副知事、市原健一つくば市長らも視察に訪れ、生活支援ロボットを産業化できるかどうか、行政も注目している様子が見て取れた。

RSセンターは、生活支援ロボットの安全性を試験する公の機関であると同時に、日本の生活支援ロボットの安全認証の仕組みの中心的拠点となる施設だ。安全性試験機関であると同時にその認証機関でもあり、また国際標準化提案機関、試験研究機関でもある。生活支援ロボット実用化プロジェクトで5年の歳月をかけ、安全性を検査するための試験技術や認証に必要なデータの蓄積などを行っていき、平成26年度からは実際に試験機関と安全認証機関として活動を行なう予定だ。ロボット製造者はRSセンターに試験を依頼し、その試験が安全基準を満たしていれば、認証依頼を受けることができるようになるのである。

運営の中心はNEDO、自動車の安全検証などを行っている財団法人 日本自動車研究所(以下、JARI)、そして「HPR」シリーズなどの開発で知られる独立行政法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)の3組織。敷地はJARIのもので、建物は産総研(11月29日に建設会社から引き渡された)が現在は所有。また、生活支援ロボット実用化プロジェクトのリーダーを務めるのも、産総研知能システム研究部門長の比留川博久氏だ。総工費は6億3000万円。当初7億円で計画していたが、事業仕分けで7000万円削られた。

画像06

RSセンターが設立された理由は、生活支援ロボットの本格的な日本の産業とするためであることはいうまでもない。ではなぜなぜ産業化が実現していないかというと、現時点で生活支援ロボットはまだ対人安全性技術などが整いきっておらず、残留リスクの高い部分が多いからだ。トヨタ自動車株式会社やパナソニック株式会社など、生活支援ロボットのプロトタイプを既に開発し、量産できるだけの技術と資本を持った企業は日本に複数あるが、安全認証の問題をクリアできないため、事故が起きた時のことなどを考慮すると、企業としてはまだ事業化できないというわけである。その問題を解決することを目的としているのが、RSセンターなのだ。

具体的には、生活支援ロボットの機械、電気、機能安全の各種試験と安全認証を行い、ユーザーに安全な機器であることを保証する。また、現在はドイツもしくは米国のの機関において安全認証などを行うことが多いのだが、それだと海外への技術漏洩を防げないことが問題点となっており、それを防ぐことも重視しているというわけだ。

RSセンターは生活支援ロボット用の日本で初めての安全検証・認証施設だが、実は世界でも初となる。実際には生活支援ロボット以外の検証や認証も可能なのだが、最初から生活支援ロボットを想定して開発された検査機器や建物の設計は世界にも類を見ないというわけである。また、ひとつの施設内ですべての安全検証・認証作業を行えるという点も大きな特徴。わざわざ検査内容に合わせてあちこちへと運び直す必要がなく、ワンストップで済むようになっている。ただし、現時点ですべての試験装置がそろっているわけではないし、平成25年度までのプロジェクトの中で、新たに追加されたり、既存の試験装置も改良されたりといった可能性もあるという形だ。

その一方で、検証作業は既に始まっている。生活支援ロボット実用化プロジェクトに参画しているトヨタ自動車株式会社、パナソニック株式会社、サイバーダイン株式会社など8社のロボットが運び込まれており、プレス向け内覧会でも実際に試験の様子を披露していた。ただし、検証施設としては稼働しているが、安全認証に関してはプロジェクト中の期間は行えないことになっている。安全認証は企業から費用を受け取って行なう営利行為であるためで、プロジェクト中の平成25年度までは「模擬認証」となる形だ。

画像10

また、プロジェクトに参画していない企業のロボットは、原則として平成26年度になるまではRSセンターを利用できないのだが、現在、追加募集が行われている。プロジェクトに参画できれば、RSセンターを利用可能だ。そしてプロジェクト終了後(平成26年度以降)はまだ暫定的だが、JARIが施設や検査機器を買い取って、自動車の安全認証同様に運営を引き受ける方向で調整が進んでいるとする。ただし、平成26年度のスタート直後はしばらく赤字経営が予想されるなど、課題もまだあるという。

続いてはRSセンターの施設についてだが、大きく4エリアに分かれている点が大きな特徴。「走行試験関連」、「対人試験関連」、「強度試験関連」、「EMC(電波、電磁ノイズなど)試験関連」という構成だ。トイレもエリアごとに用意されているなど、それぞれ独立して運用でき、ライバル社のロボットが同時期に認証試験を受けていても、秘匿性の高い情報がうっかりした会話で漏れたりすることがないよう配慮されている。

走行試験関連エリアは、生活支援ロボットが人にぶつかる前に機能的にちゃんと停止したり、回避したりできるかを見ることと、坂道での移動に関する試験、床面の異なる状況での移動に関する試験などを行う。「3次元動作解析装置」、「障害物接近再現装置」、「ロボット走行状態模擬装置」、「環境認識性能試験装置(光干渉試験)」などがある。

次の対人試験関連エリアは、人にぶつかった後の検査を行う。「衝突安全性試験機」とセンサ搭載のダミー人形を用いて、ロボットが衝突した際に人体のどの部位に衝撃がどのぐらい加わるかといったことを試験するのだ。また「静的安定性試験装置」では、静止状態で斜めになった時にどの角度まで問題なくいられるかの「静的安定性能」や「転倒限界性能」の評価も行える。そのほか、「ダミー検定装置」などを設置した、ダミー人形の検証を行なう小部屋も備えている形だ。

画像14

3つ目は、強度試験関連エリア。ほかの工業製品と同様に、機会強度試験を行い、本質安全が備わっていることを証明する必要があり、ここでは耐久性や耐衝撃性、耐荷重、耐環境製、耐振動性などの試験を行う。装置としては、「複合環境振動試験機」(温度や湿度の変更も可能)、「衝撃耐久性試験器」、「耐荷重試験機」、「装着型生活支援ロボット耐久試験機」、「ベルト型走行耐久性能試験機」、「ドラム型走行耐久性能試験機」、「重心移動制御装置」、「装着型生活支援ロボット強度試験機」などがある。

最後は、エリアの大半が電波暗室(10m法電波暗室)となっている、EMC試験関連エリア(屋根からも突き出た形となっている)。電波吸収構造をし、電波吸収体で作られた素材で囲まれた電波暗室は外部からの電波を遮蔽し、余分な電波を発しない構造となっており、その中でロボットに強力な電波を照射して異常な動作を起こさないかの観察を行ったり、ロボット自身の動作時に発生する電磁ノイズの測定を行う。

なお、各エリアの詳細については、後ほど改めて紹介する。

前の記事へ ページトップへ 次の記事へ 前の記事へ ページトップへ 次の記事へ