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下町ロボット系町工場物語 第壱回
ネジ製作工場「nejikouba.com」 at 埼玉県草加市

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本記事は、当初編集長コラム番外編として2011年02月に掲載したnejikouba.comリポート記事を、新たに特集2「下町ロボット系町工場物語」の第壱回として収録し直したものです。

ロボットに必要な部品は数あれど、その中で最も縁の下の力持ち的存在というとどれだろうか? サーボモータやフレームではないし、CPUボードやバッテリーもちょっと違うだろう。ケーブルは結構縁の下の力持ち的存在だが、そのさらに下の縁の下の力持ち的存在といったら、やはりネジ! これがなかったら、ほかがどれだけ優秀なパーツだったとしてもロボットとして組み上がらないのは説明するまでもなく、まさに真の縁の下の力持ちといったところではないだろうか。

そんな重要部品を製作している町工場といったら、ホビーロボットユーザーにはもうお馴染み。ねじあさい氏こと浅井英夫氏が代表取締役を務める有限会社浅井製作所、通称「nejikouba.com」(埼玉県草加市谷塚上町449-7)である。しかも、ホビーロボット用に「でっぱらない」ネジとしてオリジナル規格の「低頭」や「超低頭」といったネジを開発し、今や全国のホビーロボットビルダーの多数が愛用。ほかの工場がやりたがらないことを率先して引き受け、nejikouba.comがなかったら、今日のホビーロボット業界はどうなっていたことやら、というほどの存在なのである。今回は編集長コラム「デイビーのひと言」番外編ということで、「ドキュメント・nejikouba.com」をお届け。機械油のたまらなくいいニオイのする浅井製作所をリポートに潜入だ!

それではまず、この小さな金属製の部品の作り方から迫ってみよう。皆さんは、ネジがどうやって作られているかご存じだろうか? 頭の部分とネジを切ってある軸を別々に作ってからくっつける? それとも、金属の塊からあの形に削りだしていく? 答えは、どちらも違う。いわれてみると、あぁ、なるほど! と納得できる、無駄のない作り方をしているのだ。

まずは、ワイヤー状の金属の材料を一定の長さにカットするところからネジ作りは始まる。さらに、そのカットした金属の片方の端に金型を押しつけてものすごい圧力をかけてつぶし、横に広げることで頭の部分を作るのだ。同時に、その金型には十字の凸があるので、頭頂部に十字の凹みができる仕組み。これでプラスネジが半分完成というわけで、ここまでは「ヘッダーマシン」もしくは「圧造機」と呼ばれる1台の工作機械で行っている。機械は非常にリズミカルにスムーズに説明した作業を行い、約1秒に1個のペースで溝のない状態のネジが完成しているという具合だ。

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ネジの作り方として、例として挙げた頭部と軸を接着する方法は強度の問題で無理があるし、削り出す方法はカスが多量に出てムダが多いなど、採用されていないのである。ちなみに、ネジはこの材料となるワイヤー状の金属の太さや材質などによって、完成時のネジの種類や径などが変わる。金型によって頭の形が変化するし、カット次第で全長が変わるというわけだ。なお、近年はあまり見なくなってしまったのだが、マイナスネジも現在は同じ工程で作られている。ただし、かつては頭部を作ってから直線の刻みを入れるのでプラスネジよりも1工程多かったそうで、少し手間のかかる製品だったそうだ。日本独自の規格(これもガラパゴス?)だったのだが、海外ではプラスネジが使われていること、実際に使用してドライバーとのかみ合わせの問題でプラスネジの方が優れていることから徐々に姿を消してきているというわけだが、nejikouba.comなら注文可能である。

次の工程に入る前に、ガラと呼ばれる装置に今できたばかりの溝なしネジを入れ、磨いたり汚れを取ったりする。ガラは、中が中空の六角柱の箱が口を斜め上に向ける形でセットされている装置で、この中に溝なしネジを入れ、有機溶剤系の液体を洗剤として混ぜてガラガラと回転させるのだ。そして一部のネジは、有機溶剤を落とすために「洗い油」とばれるのだが、灯油を使って洗い、さらにその灯油を落とすために遠心分離器にかけるといった作業を行うこともある。

続いては、「転造機」と呼ばれる別の工作機械に溝なしネジを移して、軸に溝を作って完成させる工程だ。一見すると今度こそ削っているような雰囲気がするが、実際にはここでも圧力を利用して変形させているというのが正しい(その課程で、金属のカスが出てしまうことはある)。作業としては、直線の溝が斜めに切られたふたつの金型でもって、溝なしネジの軸部分を左右両側から挟み込み、圧力をかけながらこすっていくという具合。すると、金型の凸部分に押されてネジの軸が一定間隔でらせんを描きながら凹んで谷の部分ができる。その一方、押されて余った金属が金型の凹部分に沿って盛り上がり、らせん状に山ができるという具合だ。こうしてネジが完成し、nejikouba.comでは1日に40万本から50万本も生産しているのである。

なお、溝の谷の部分は元のワイヤー状の金属材料の直径よりもネジの山の部分が盛り上がって太くなるため、材料は実際に作りたいネジよりも直径の細いものを使う。溝を作ることで盛り上がった凸部分も計算に入れてあるのだ。なお、溝の深さなどの形状は、金型を変えることで対応している。基本的にはこれでネジは完成だが、種類によってはこの後にもうひと工程、軸先の一部分をカットするという作業を行う場合もあるそうだ。

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形としては完成したが、作業としてはまだ終わりではない。最後に遠心分離器にかけて油を飛ばすのである。溝を作ったり、その後の一部のネジのみに行なわれる軸の先端をカットする工程では、金属くずが飛び散らないように機械油を流しながら作業となっている。そのため、ネジが油でベトベトになっており、それを遠心分離器で飛ばしてしまうというわけだ。ここでnejikouba.comでの作業は終了となり、低頭や超低頭ネジなどより強度を必要とするネジに関しては焼きを入れを行い、すべてのネジに対しては最後にメッキ処理を施すが、この2工程は外注だそうである。メッキ処理から戻ってきたら本当に完成というわけで、発送したり、ストックしたりするというわけだ。

ちなみに、低頭や超低頭ネジは最近になって焼きを入れるようにしたそうだが、それがロボットユーザーには好評という。これらのネジは頭の形状の関係で十字穴が小さいため、焼き入れをしていないとその十字穴(ネジ山という表現があるが、正式にはネジ山は軸の溝の凸部のことことで、頭部の穴のことは正式には十字穴というのだそうだ)をつぶしてしまいやすかったのだ。それが、焼きを入れて強度を上げることでつぶれにくくなり、扱いやすくなったのでる。ただし、逆にドライバーの方を痛めてしまうこともあるという。ネジ回しはあまり経験がないというビギナーの方は、ネジを回す時は締める時だけでなくゆるめる時もちゃんと手のひらに力を入れて押し込むようにすることを忘れないようにしよう。ゆるめるのに押し込むというのは、一見矛盾しているように見えるけど、ドライバーを十字穴にきちんとかみ合わすための力なので、「押しながら回す」を忘れないように心がけよう。

続いては、ねじあさい氏にネジ作りに関する話を伺ってみた。稼働している工作機械の数々は、見てもらえばわかると思うが、かなり年季の入った感じがするものばかり。いつ頃から使われているのかを訪ねてみたところ、先代社長のねじあさい氏のお父さんの頃からだそうで、昭和40年代の機械も数多い。40年選手たちがざらなのである。年齢的にはねじあさい氏とそれほど変わらないので、まさに幼少時から一緒に育ってきた兄弟というか分身というか、自分の身体の一部のような存在ではないだろうか。また、安全装置が今の機械ほどしっかりしていないため、扱うにはかなり危険な一面もあるという。ねじあさい氏も指を挟んだり切ったり、危うく取り返しのつかない事態になりそうになったことが何度もあるそうだ。

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ちなみに、40年前に製造された工作機械ともなると、下手したら製造したメーカー自体がなくなっている可能性もあるのではないかと思うところ。当然、稼働している同型機はすでに数が少なくなっており、非常にレア度が高そうな雰囲気である。しかし、実は全国レベルで見ればそれほど珍しくはないという。だとすれば、もっとnejikouba.comのライバルとなるような企業もありそうだが、「普通に作っていたのでははっきりいって儲からないから、小ロットの生産とかはどこもあまりやろうとはしないんですよね。でも、工夫次第でなんとかなるんですよ。現に、こうしてロボットユーザーの方たちがたくさん買ってくれていますし」とねじあさい氏はいう。ものづくりは工夫次第ということである。機会を改めて、そこら辺の話はぜひ聞いてみたいところだ。

ちなみに、今後はどうなのだろうか? 40年を経た工作機械となると、なかなかメンテナンスも大変そう。どれぐらい持つのか心配してしまう面もある。ホビーロボットユーザーのためにも、ご自身が2代目として後を継いだように、息子さんに3代目として後を継いでもらって、今後も何十年と続けていってもらうことは可能なのだろうか? そんな疑問をぶつけてみると、「自分の定年まであと20年ぐらいは、今のこの機械たちは持つとは思いますけど、さすがにその後は厳しいでしょうね。機械がもたないでしょう。だからといって、新しい機械を購入して同じことをやろうとしたら、今度は利益を出せないんですよね。だから、全国的に見てもうちみたいに少数生産をするようなところがどんどん減っているわけでして。こんな状況ですから、息子には後を継いでもらうのは無理だと思うので、逆にやるなというぐらいですね」だそうである。町工場を存続させることにこそ、日本のものづくりの将来があると思うのだが、具体的にこうして話を伺うと、非常に考えさせられてしまう。まだ20年の猶予はあるとはいえ、ホビーロボットも日本の製造業の衰退の影響を受けてしまうのは確実なのだ。あと1世代20年、それともまだ20年なのか微妙なところではあるが、国にはもっと町工場の経営者に話を聞いてもらいたいというところではある。「でも、きっと何かうまい方法があると、希望は持ってます。国がどうしてくれるとかそういうのはわかりませんが、日本は町工場で持っているわけですし、町工場は終わりませんよ」。この先20年、ロボタイムズもがんばってロボットだけでなく、こうしたロボットを通した日本のものづくりの現状に関してもアプローチしていきたいと思う。

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また、今回はnejikouba.comの倉庫にも入らしてもらった。低頭ネジや超低頭ネジばかりを作っているわけではなくて、そのほかにも非常に多種多様なネジを作っているのが改めてわかった。低頭ネジや超低頭ネジは一角を占めているが、ストックしている量全体で見たら1割ぐらいといったところ。かつてネジは、問屋が工場から一括して大量に買い上げて在庫をストックし、注文に応じて出荷という流れが当然だったそうである。しかし今は工場側がストックさせられるようになってしまい、そうした点でもネジ工場、さらにはさまざまな町工場が苦労を強いられているという。nejikouba.comはまだ敷地があって倉庫を用意できるから何とかなるということだが、こうした辺りにも近年の日本の町工場・中小企業への負担の押しつけという構造が見え、なんとかならないものかと思ってしまうところである。もちろん、まだまだ昔ながらに町工場のことを考えてくれている商社も多いのだが、中間で利益をむさぼっているだけの商社には、町工場と消費者のためにも早々に退場してもらいたい。そうした世の中の流れもあったことから、ねじあさい氏はインターネットを活用したnejikouba.comというサイトを立ち上げるに至ったのだ。生産者と消費者が直接やり取りできるインターネットを活用した仕組みは、不必要な中間を省くことができ、町工場が生き残っていくために必要なひとつツールといえるだろう。高齢のためインターネットへの対応が難しいという町工場の経営者の方も多いとは思われるが、そうした町工場にもぜひnejikouba.comを参考にしてもらいたい。

というわけで、ネジができあがるまでの様子を見させてもらって感嘆した一方で、日本のものづくりの直面している問題も直接的に聞かせてもらえた今回の取材。非常に有意義だったというのが正直な感想だ。なお、nejikouba.comは工場見学もこの通り実施しており、ねじあさい氏はウェルカム! ということなので、こちらの問い合わせフォームから申し込んでみよう。ネジの注文の問い合わせフォームでもあるが、工場見学に関しても受け付けてくれるので問題ない。工場見学は無料で、なおかつ土曜日も工場は稼働しているということから、親子での見学も可能だ。特に、全国のロボットユーザーの方たちには見学に来てほしいということなので、機会を見つけてぜひ足を運んでみてほしい。駐車場もあるし、鉄道の場合は東武伊勢崎線「谷塚駅」から徒歩15~20分。企業秘密は一切ないということで、ネジ作りの全行程を見せてくれるので、ぜひ日本の町工場の底力を体感しに行ってみてほしい!

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