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TOP >  イベントリポート >  記事2010年11月07日-a

マイクロ波ロケットに30m級次世代超大型望遠鏡
ロボット以外も面白かった宙博2010リポート後編

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科学技術館で開催された「宙博2010」の後編。今回は、ロボット以外で興味深かったものをピックアップ。宇宙太陽光発電システム(SSPS)やマイクロ波ロケット、次世代超大型望遠鏡「TMT」(Thirty Meter Telescope)などを中心にお届けする。前編はこちら

まずは、SSPSから(詳細は、こちら)。SSPSはいわゆる、衛星軌道上に太陽光発電システムを大量に展開してそこで発電し、電気エネルギーをマイクロ波に変換して地上に送電するという仕組みである。環境問題的な面や安定供給の点で非常に優れているし、発電効率も地上に比べて約10倍と非常に優れているわけだが、実現させるためにはクリアすべきハードルが複数あるのが現実だ。

問題点のひとつは、100万kW級の実用的なレベルでの発電のためには、地上3万6000kmの静止衛星軌道上に数10から100台ほど(合計の面積は数km、質量は2tほど)の太陽光発電衛星を打ち上げる必要があり、非常に打ち上げコストがかかるということ。一気に輸送できるわけがないので、何度も輸送しないとならのだが、輸送回数が増えれば増えるほど、現在の使い捨て型の科学燃焼方式のロケットだと輸送コストがかさむのは言うまでもない。結果、電気料金に跳ね返って超高額となってしまって、意味がないということになってしまう。

そこで、まず考えられているのが輸送回数を減らす方法。そのひとつが、発電衛星を分割し、なおかつそれぞれを細かく折りたたんで、宇宙空間で広げて接続するという考えだ。発電衛星を展開するのに、モーターを使うと故障する可能性があるため、形状記憶合金を使用。電気を通して熱することで、形状記憶合金の元の形に戻ろうとする力を利用してパネルを展開するのである。また、太陽電池パネルの表面で受光したら、裏面から即マイクロ波を地球の日本(イラストでは近海の洋上)にアンテナに向けてに向けて放射するという、非常に薄く作ることも目指している。

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しかし、どれだけ薄くして小さくたためたとしても限界はあるし、仮に50回の打ち上げを半分の25回まで減らせたとしても、やはりまだコスト的にはかなりのものになってしまう。そこで、現在の使い捨て型の科学寝燃焼方式のロケットに替わる技術を用いて輸送費用そのものを下げることも考えられている。宇宙への輸送手段をローコスト化する手段として今回紹介されていたのは2種類。そのひとつがJAXAで研究開発中の「再使用ロケット」である。アメリカなどでも研究されているが、飛行機のように何度も繰り返して宇宙と地上の往還を行えるようにすれば、必然的にコストを下げられるというわけだ。

そして、まだまだ実験室レベルの技術なのだが、もうひとつが東京大学教授の小柴公也氏によって研究されている「マイクロ波ロケット」(詳細はこちら)である。現在のロケットは、重量の大半を化学燃料が占めていて、化学燃料を打ち上げるためにさらに大量の化学燃料を搭載するという、非効率的な面がある。そこでマイクロ波ロケットは化学燃料を極力搭載せず(宇宙空間での移動では絶対に必要なので決してゼロにはできない)、地上からマイクロ波を照射してそれを推進エネルギー源とする仕組みとしているビーミング推進の一種だ。どのような仕組みかというと、マイクロ波を集光させて空気を爆発させ(絶縁破壊)、それによって推力を得るというもの。要するに、空気そのものを燃料とするわけだ。

ただしこの方式も万能ではなく、当然空気が薄くなる高空では使えないため、おおよそ高度20~30kmぐらいまでが推力を発生させられる限界。そのあとは、やはりあらかじめ搭載した燃料を爆発させることになる。それでも、酸化剤を必要としなくなるのでその分軽くすることが可能だ。一方、空気を利用できる高度までに一気に静止衛星軌道までたどり着ける速度を出すという方法もあるが、それだと試算によれば約50Gにも達するそうで、なかなか難しいようである。なお、マイクロ波ロケットは、2009年に実験室レベルではあるが推力を持続的に発生させることには成功したそうだ。

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続いては、現在開発中の次世代大型望遠鏡について。なお、現代の望遠鏡は、アクチュエータを駆使して能動的に鏡面を操作することで集光力や解像度を上げており、ロボットの一種といえる。日本において開発中なのが、岡山で2014年に完成予定の直径3.8mの新技術望遠鏡だ(詳細はこちら)。すばるは主鏡のみはアメリカで製作されたが、今回は完全に純国産で開発し、完成すればアジア最大の望遠鏡となる。すばるの8.2m望遠鏡の一枚鏡がなぜ日本でできなかったかというと、単純にそれだけのサイズのものを作り出せる設備がなかったから。しかし、今回は半分以下のサイズではあるが、すべて日本で開発する。それは、この後に紹介する30m級TMTの主鏡の開発に備えて技術の開発と蓄積を行うためだ。

今回はどのように開発するかというと、主鏡を1枚で作るのではなく、18のパーツに分割して、それを同心円状に並べて擬似的に1枚鏡と同等の性能を得る形にするのである。分割鏡は日本の望遠鏡としては初の試みで、それぞれをアクチュエータを用いてナノメートル単位で制御することで、1枚鏡と同じ精度を出すというわけだ。

そして、30m級の次世代超大型望遠鏡「TMT」(詳細はこちら)。2018年完成予定で、ハワイ島マウナケア山のすばるよりも若干下がった地点の平地に建設される(世界中の天文台が建設されているため、もう頂上近辺には土地がないそうである)。TMTの能力は、すばるに対して集光力が13倍、補償光学機能を使用しての解像度は3.7倍となる。ハッブル宇宙望遠鏡よりも高い解像度を実現できる計算だ。

ただし、こちらは純国産ではなく、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大、カナダ天文学大学連合が参画する国際プロジェクトで、さらには中国やインドなども参加を検討している。日本は、574分割される主鏡に加え、副鏡、第3鏡、観測装置などの開発を希望しているところで、基礎検証・技術実証が進行中。分担は、国際協議を経て最終決定され、2012年から建設が始まる予定である。TMTの目標は、宇宙で最初に生まれた天体の観測、太陽系外地球型惑星およびそうした惑星における生命体の探査、直接的な宇宙膨張の証拠(従来は間接的な証拠のみ)などということだ。

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そのほか、現在、宇宙を航行中のJAXAの小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」(詳細はこちら)の4分の1にカットしたセイル(それでも、14m×5.5m)とそれを巻き付けたIKAROS本体の中核部分のテスト機も展示された。4分の1にもかかわらず、セイルは非常に巨大で、これがなんでこんなにコンパクトにたたまれているのかと、信じられないほどである。

さらに、子どもだけでなく大人もOKだった(記者は身長オーバーで装着できず)宇宙服装着体験コーナー、宇宙船内服(実際にそこからフィードバックされた商品が販売中)、火星のバーチャルリアリティ映像、宇宙とは直接的には離れるが電気自動車、そしてはやぶさやミネルバの関連などさまざまなものに見て・触れられる3日間となっていた。

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