【ロボット業界のキーマンに聴く】第1回:千葉工業大学fuRo所長
古田貴之氏 Vol.3「テーマ待ちの姿勢からの脱却」
ロボット業界の動向や、企業の製品の今後の展開などについて第一人者に話を伺うコーナー「ロボット業界のキーマンに聴く」。千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(Future Robotics Technology Center:fuRo、フューロ)所長の古田貴之氏のVol.3(Vol.1はこちら、Vol.2はこちら)は、「テーマ待ちの姿勢からの脱却」だ。なお、今回は古田氏が開発した以前のロボットの写真を発掘できたので、今回の話題とは関係ないが(morphに関してはVol.1で触れた)、古田氏の理念が見て取れると思うので掲載した。写真撮影協力は、日本科学未来館。
前回までは、なぜ日本でなかなかロボットが産業にならないのかという点や、古田氏がfuRoを解説した理由や目的などを掲載してきた。今回は、少し視点を変え、アメリカがいよいよロボット技術に本腰を入れるという話と、日本で「ロボットもガラパゴス化するのでは?」という危機感がつのっている点についうかがってみる。
日本の現状に対して聴いてみると、「危機感はあります。危機感だらけであって、危機感を感じないことの方が不思議です」という答え。ただし、日本のロボット技術がガラパゴス化してしまう危険性については、「アメリカが本腰を入れるからといって、日本が置いていかれたり、ガラバゴス化してしまったりするという風に考えてしまうことに対しても危機感を感じますね。その発想も危ないです」という。「アメリカが本腰を入れるからガラパゴス化」は、日本がずっとこれまで繰り返してきて、これからも繰り返すであろう過ちを表していると語る。「おっ、新しいネタがアメリカにあるな。そいつに遅れちゃいかん。後れを取るな、ガラパゴスになっちまう」という感覚だという。
日本は、常にどんなものを作るべきか、どんなサービスを世の中に展開していくべきか、そうしたことを自分で考えることをしなくなってしまっている。「いつも、口を開けてお題が降ってくるのを待っている状態なんですね」。例えば、アメリカが音楽配信サービスだ、スマートグリッドだ、電気自動車だとなると、日本もそれを追いかけ出した。要するに、マネをしているだけ。同じような思考パターンで、アメリカがロボットに本腰を入れるとなると、「じゃあ、うちもやらないとガラパゴスになっちゃう」となりつつあるのが現状。そういうワンパターンの思考に陥っていることに対し、危機感を感じないことが不思議で仕方がないという。
現在、日本は景気が凄く悪かったり、元気がなかったりすることにも、古田氏からすれば、なるべくしてなった根本的な理由があるという。日本の産業界、テレビにしろパソコンにしろ、中には自動車すらもそうなるかも知れなくて、アジア諸外国に安くてそれなりにいいものを作られてどんどんシェアを奪われていっているのが現状である。果たして、このままでいて日本は10年後、20年後に、どんな産業で世界に打って出るのか、世界で戦うのか。と考えた時に愕然とするのが、日本には何もビジョンがないということだ。
これは、歴史を振り返るとよくわかる。かつてアメリカに対して「追いつけ・追い越せ」で、三種の神器とか新・三種の神器といわれる時代に、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、自動車など、とにかくアメリカで生まれた製品を安くてもっといいものになるよう一生懸命作って、高度成長期に這い上がっていった。それが、近年、立場を変えて同じことが起きていて、かつてのアメリカが今の日本で、かつての日本が今のアジア諸国となっているわけだ。
では、かつて追われる立場だったアメリカは、日本に安くていいものを作られてだいぶ負けてしまったのだが、どうしたかというとここがポイントである。「新しいものの価値とか、新しいライフスタイルとか、新しいサービスを生む術を覚えたんです。それが先ほどいったいったスマートグリッドだったり、iTunesなどの音楽配信サービスとプレーヤーだったり、Googleなどの検索システムだったりするわけです」。新しい価値観を世の中に実現することで、また頭ひとつ抜けてきたというわけである。
その一方で日本はどうかというと、三種の神器や新・三種の神器で勝った成功体験が抜けきれず、「次の三種の神器は何だ?」と口を開けて待っている状態だという。それで、アメリカがロボットとなれば、「じゃあ、次はやっぱりロボットだ!」と、考えなしに後を追いかけてしまう。「でも、そんなことをしている限りでは、絶対にアジア諸国には勝てません」という古田氏は、そこにも危機感を感じているとした。「このスタイルを維持し続けて、10年後、20年後に日本は何で勝負をしますか、と。勝負できるものは僕には何もないと思っています」。1位になったはいいけど、それで追いかけるべき目標を見失って迷走しだし、アメリカには再び抜かれ、下からもどんどん追い立てられているのが今の日本なのである。1位になった時の走り方というのをいい加減、学ばなければならないというわけだ。
ロボット技術は、かなり以前から次の日本の産業だといわれてきたが、全然産業にならない。それも前述したように、ただ待っているだけの状態なので、古田氏にいわせれば「当たり前」だという。しかし、日本は少子高齢化の問題に対処するため、諸外国からの移民と技術によって補うという二択の内、ほぼ間違いなく後者を選択しようとしていることから、ロボット技術は絶対に必要で、なくなるということはあり得ない。しかし、現状では下手なサッカー状態で、ボールが転がってくるのを待っているだけ。うまくいく戦術があったらマネをして、自分から新しい戦術を考えるようなことはしないというわけである。「テーマ待ちの姿勢は、ダメでしょう」。
だからこそ、前回もいったが、新しいサービスの提供やライフスタイルの創出といった「ものごと作り」が重要なのだ。アップルが、ハードウェアとして優れた日本製品を蹴散らしてiPodやiTunesなどの音楽産業で成功したのは、iTunesの音楽配信サービスという新しいサービスがあったからだし、iPodを「持っていることがカッコいい」とライフスタイルの創出に成功したからである。ものも含めて、サービスやそれらを使ったライフスタイルのありようなどすべての「ものごと作り」が重要なのだ。今は、どれだけユーザーが満足するかということにこそ、価値があるのである。「今のやり方では、日本は一番にはなれませんね」。日本は、常に追いかける目標がないとダメな体質となっており、そろそろそこから脱却しなければ、危機的な状況がやって来てしまうのである。(以下、Vol.4に続く)